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2003年10月21日
[だから「旬」]静岡のスローフード タカアシガニ/静岡
中島さんは経営する食堂の水槽で100匹以上のタカアシガニを飼育している
西
伊豆の小さな村・戸田村には大きな世界一がある。ハサミを広げると最大3メートルを超えるタカアシガニだ。9月中旬?翌5月中旬が漁期で、まさに今が「旬」にあたる。村では旅館や食堂などで、その味を楽しむことができる。村観光組合も「なくてはならないもの」と言い切る存在だが、タカアシガニの漁獲高は右肩下がりで、「子供たちに残すことができない」との声も上がっている。
◇世界最大、漁獲減で高級品に??放流で「母ガニ」保護
タカアシガニは三陸沖から九州まで水深200?400メートルの海底にすむ日本特有のカニで、中でも駿河湾は多く生息することで知られる。最大の特徴の長いハサミはオスだけが持ち、成長とともに長くなる。若い時は他の足の長さの4割前後だが、脱皮のたびに足とハサミの差は縮まり、7?8歳になるとハサミの長さが足を追い抜く。
これは他のカニにはない特徴と言われ、理由は解明されていない。また、メスの成長も遅く卵を産めるようになるのは7歳ごろになってからだ。
もともとこのカニは「売るもの」ではなく、底引き網漁の網にかかった「おまけ」だった。戸田村で「の一食堂」を経営する中島茂司さん(70)は「地元ではおいしいとは知られていたが、保存が難しく知名度は低かった」と話す。だが、約40年前に村の旅館が宿泊客に出すと「世界最大のカニ」と評判になり、観光の目玉となった。
タカアシガニは、卵を産む前の若い雌も雄も区別なく水揚げされるようになった。75年ごろまでは20トン以上の漁獲高があったが、その後は減少を続け、97年にはわずか1・7トンに減った。最近は2トン前後で推移するが、1回の漁で1匹も網にかからないこともあり、中島さんは「ズワイはトン単位。タカアシは匹単位」と表情を曇らせる。
中島さんは83年、禁漁期に入った5月に食材用の卵を抱いたメス10匹を駿河湾に放した。周囲にも呼びかけたが、当初はほとんど相手にされなかった。「1匹のメスの持つ卵がすべて大人になれば1世紀分になるのに、分かってもらえなかった」。カニの値段も高騰し、高くても1匹5000円程度だったのが4倍以上することもある高級品になった。
中島さんは年1回の「孤独な戦い」を続けたが、皮肉なことに目に見えて減る漁獲高が理解者を増やすことになった。「子供の時に食べたゆでたてのおいしさが忘れられない」と話すのは、商工会の石原厚事務局長(44)だ。年々減り続ける漁獲高に危機感を持ち「もっと盛大にやらなくては」と、放流会を商工会として主催することに力を尽くした。今年も5月に放流会があり116匹を放流している。
「育てる」という面でも研究が進んでいる。沼津市口野の県栽培漁業センターでは15年ほど前からタカアシガニの研究を始めた。当初は稚カニにまで育てられなかったが、海水を何度もろ過するなどでタカアシガニのすむ深海のきれいな水を再現することで、卵の1?2割を稚カニに育てられるようになった。岡本一利主任研究員(41)は「5割ほどを目標にしたい。海洋深層水の利用などで見通しは明るい」と自信をのぞかせる。
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大皿に載って出されたタカアシガニは、その長い足を折ると薄ピンク色で弾力のある身と肉汁があふれ出した。「水ガニ」と呼ばれる通り、みずみずしく肉汁には海のうまみが凝縮されていた。ミソも天然のスープといえるほど濃厚なものだった。「おいしいと食べてもらうのがカニにとって幸せ。だからこそ、母ガニの保護に力を入れる」。おいしさと危うさの両面を知る中島さんの言葉には、タカアシガニへの愛情が込められていた。
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◇タカアシガニのおいしい食べ方
タカアシガニが1匹入る大きな鍋を用意して、強火で一気に蒸すのが一番おいしく食べられる。20分ぐらいが良い。身が水っぽく煮ると身がべたべたし、焼くと水分が飛ぶので、蒸すことで本来のおいしさが楽しめる。蒸すのにだし汁などをかけても良い。(の一食堂・中島茂司さん)
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