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2003年12月24日
[だから「旬」]静岡のスローフード 麻機地区「幻のレンコン」/静岡
掘り出した麻機レンコンの泥をぬぐう静岡市の中川さん
師
走になると、街の雰囲気が慌ただしい。デパートの食品売り場ではおせち料理の受け付けも始まった。穴が開いて種も多いことから「見通しがきく」「多産」と重宝がられ、昔から慶事に登場するレンコンも欠かせない食材だ。レンコンをキーワードに静岡を調べてみると、静岡市北部麻機(あさはた)地区に、ほとんど市場に流通しない「幻のレンコン」があるのが分かった。どんなものなのか。まずは栽培農家を訪ねてみた。
* * *
徳川家康が安倍川をせき止めてできたと言われる麻機遊水池。その近くに50年以上もレンコンを作り続けている中川茂さん(73)の家を見つけた。中川さんは約30年間、地元農協のレンコン委員会の責任者を務めている。
からりと晴れ上がった12月上旬。中川さんはレンコン田をくわで掘り始めた。30センチほど掘り進むと新芽が見つかり、そこからはレンコンを傷つけないように両手で掘り進む。50?70センチの深さまで掘ると、直径7?8センチ、長さ30センチほどのレンコンが顔をのぞかせた。
「今年は本当に出ないだよ」。冷夏で土中の温度が上がらず、レンコンが太くならなかった。例年なら長さ1メートル、重さ2?3キロになるものがあるが、今年はほとんどなかったという。
レンコン栽培は毎年春、残しておいた親のレンコンを植え直すところから始まる。夏になると白やピンクのハスの花が咲くが、地中では半径4?5メートルに広がった根が太くなり始め、おなじみの姿に。収穫の最盛期は秋だが、おせち用に年末にも収穫する。県経済連によると、県内の生産量は約549トン(02年)。全国生産量の約4割を茨城県産が占め、静岡産は1%にも満たない。うち麻機レンコンの生産量はわずか6・6トン。JA静岡市によると、今年は4・5トンにとどまる見込みだ。
「生産量は少ないけんが、うちは味で勝負だから。味は日本一だよ」と中川さんは胸を張る。
中川さんによると、麻機は海抜が低く、かつて生えていた雑草が泥水とともにたい肥となり、柔らかい土がレンコン作りに適している。水田での栽培と違って実が引き締まり、泥つきで出荷するので日持ちも良い。
しかし、昔は約15ヘクタールだったレンコン田は年々減り続け、今や2ヘクタールほど。かつて20人近かった委員会のメンバーも高齢化などで9人に減った。全国的には機械収穫の農家が増える中、考古学の発掘作業のように手作業で進める重労働も後継者不足につながるのだろう。
そうして収穫された麻機レンコンは1キロあたり750円ほどで、通常より1?2割は高い。スーパーなどには流通せず、JAを通して事前に注文するか、定期的に開催する同市北の「あさはたじまん市」などでしか手に入らない。「幻」と言われるゆえんだ。
「毎年この時期になると食べたくなるんですよ」。そう話すのは、近くの麻機小の成島進教頭(56)だ。固定ファンの予約だけで売り切れてしまうことも多く、幻ぶりに拍車がかかる。「10センチもないレンコンが1キロ300円で買ってもらえる。捨てるとこなんかないだよ」。そう話す中川さんは誇らしげだった。
* * *
もらったレンコンは泥を落とすと鮮やかな薄いクリーム色。つやがあり、穴の形も左右対称だ。
シンプルな味付けで素材のうまさを味わいたくて、油で軽く炒め塩コショウを振りかけると、香ばしいにおいが食欲をそそった。茨城産と食べ比べてみると、軟らかく粘り気のある歯ごたえが大きな特徴だ。
麻機の豊かな土地でしか取れない「幻のレンコン」。正月を迎える楽しみがまた一つ増えた。
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◇レンコンの吉野酢あえ
2センチ角の乱切りにして酢水につけたレンコンを、少量の酢を加えた湯で約2分ゆでる。酢、砂糖、だし汁、塩、みりんを中火にかけ、レンコンを入れて混ぜ合わせる。水でといた片栗粉を入れてからめ、輪切りにした唐辛子を加えれば出来上がり。歯ごたえを楽しむには、ゆで過ぎないように。(静岡市の鈴木学園中央調理製菓専門学校静岡校 国見雄三副校長)
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