春の息吹とともに、地中から姿を見せる筍(たけのこ)。地面から顔を出すとぐんぐん伸び、一旬(10日)で竹になることから「筍」と書き表される。筍掘りができるのは春だけだ。「短命だからこそ旬の代表物」と評される。掘りたての筍は、刺し身で食べることができる。一体、どんな味が楽しめるのだろうか。
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見上げるほどの急斜面に、無数の竹がそびえ立っていた。晴れ上がった朝なのに、竹林の中は少し薄暗い。人気のない山の中で「コーン、コーン」と甲高い音が響く。農家の人が竹の地下茎をくわで切り取っているのだ。浅く掘られた穴の中に手が伸びると、土にまみれた筍が姿を現した。
玉露で有名な岡部町朝比奈地区は、石の少ない粘土質の土壌に恵まれ、良質な筍の産地としても知られる。全国5位の生産量を誇る静岡県でも有数の産地だ。彼岸入りしてぽかぽか陽気となった3月中旬、同地区の竹林を訪れた。
「これが『えみ』ですよ」
作業の手を休め、池野美智枝さん(67)が地面を指さす。地下の筍が成長すると、土が割れる。この地割れを、農家の人は「えみ」と呼ぶ。収穫は、地上に姿が出る前に探し出せるかが勝負だ。筍は成長が早く、地面から出るとすぐに硬くなる。「青くなった筍は二級品」。池野さんは『えみ』を見つけるたび、枯れ枝を挿して目印を付けていった。
一級品が取れても、その日に食べる「朝掘り」でないと真の旬の味とは言えないそうだ。鮮度が風味や食感の良しあしに直結するためだ。時間がたつと風味が失われ、特有のえぐみも強くなる。取れたての鮮度を保てるのはわずか1日。
今、日本で旬の筍を味わう機会は、確実に減っている。林野庁の調べによると、国内生産量はピークだった80年の約17万2800トンから02年は約3万5200トンにまで落ち込んだ。理由は、安い中国産の輸入や後継者不足などだ。一方で竹材利用も激減しており、放置された竹林が全国で社会問題化している。
竹は繁殖力が強く、放っておくと山一面を覆ってしまう。このため、定期的に間引いて竹の本数を一定に管理することが良い筍を育てるポイントにもなる。
竹林拡大の問題は、ほぼ全域で竹が栽培されている静岡県でも悩みの種だ。県が人工衛星で調べたところ、88年から00年までの12年間で、竹林の面積が約1・3倍になっていたことが判明した。竹林に覆われた部分は日光が当たらず、竹との「戦争」に敗れた他の植物は育たなくなり、生物の多様性が失われてしまう。急激に増える竹林が、杉やヒノキなど他の森林や茶園に侵入する被害も確認されている。
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テーブルに出された筍の刺し身は、野山に咲く草花の香りがした。一切れをつまんでわさびじょうゆで食べる。シャキシャキとした食感が心地よい。
「さっき掘ったばかりの筍です。今の時期の筍は香りがいいんですよ」。掘ったばかりの筍をふんだんに使った筍料理を出す「あづま民宿」(岡部町宮島)の主人、前島東平さん(65)が笑顔でもてなしてくれた。
県内では筍は12月ごろに出始め、3月の彼岸入りから本格化する。4月いっぱい取れるが、一番うまいのは4月中ごろの1週間程度だという。
今時、温室栽培できないのは筍ぐらい。「旬のものを味わって、身も心も健康になってほしいですね」。前島さんの言葉が身にしみた。【小林慎】
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●筍の保存法とおいしいゆで方●
新鮮な筍を皮をむいて調理目的に合った大きさに切り、冷凍専用袋に入れ、空気を抜いて密閉状態で冷凍庫に入れる。えぐみが気になるなら米のとぎ汁を入れ、沸騰させた中で解凍させて使用する。
ゆで方は圧力鍋に7分程度に水を入れ、ぬか一握りと赤唐辛子2本を加える。たけのこを入れすのこを落としぶたする。加圧後、15分程度そのままにしておく。(大井川農協営農部長・酒井敏さん)
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