山菜の王様と呼ばれるタラの芽を探しに山形県真室川町に出かけた。残雪に降り注ぐ陽光と甘い味わい??春の訪れを全身で感じた。
◇絶品、みそあえ茶漬け
風は冷たいが、日差しが暖かく気持ちいい。3月31日、山形県のJR新庄駅から、2両編成のワンマン電車に揺られてさらに北に向かった。
約20分で真室川駅に着く。人口約1万人の、米と野菜の農業の町だ。とりわけ、ハウス栽培のタラの芽の産地として全国に知られている。山形産のなかでもおいしくて、品質が安定していることで評価が高い。
「おいしいタラの芽を作るには夏の適度な雨と冬の雪が必要です。気温が高いと芽が伸びないし甘みも出ない。真室川には条件がそろっているんですよ」。栽培農家の佐川春治さん(64)が自慢する。畑とハウスを案内してもらった。
ここで少し説明が必要だ。私たちが食べているタラの芽は、ほとんどがハウスで栽培されている。もともとは丘陵や山間地に自生するウコギ科の木だが、天然ものは高さ2?6メートルの木のてっぺんに一つしか芽が出ない(頂芽)。このため、多くの芽を収穫するためにハウス栽培法が開発された。
まず6月から7月にかけて、根から発芽させた苗木を畑に植える。翌年秋には2?3メートルにまで育つので、ここで伐採する。木のままでは頂芽しか出ないので、この木を10?15センチの長さに切る。すると、それぞれの「駒木」のてっぺんから芽が出始めるのだ。あとは、駒木をハウスのなかに並べて(伏せ込み)、水温17度で水耕栽培する。もっとも芽がおいしい時期に出荷する、という段取りだ。
1本のタラの木からおよそ20個の芽が採れる。鮮やかな緑色、独特のもちもち感。市場では、赤みが強くてトゲがあり、香りの強い天然ものよりも人気が高い。Lサイズ6?7個入りパックで小売値400?450円程度。安くはないが、春を感じるには最高の食材だ。ぜひ奮発しよう。
佐川さん方のハウスにはトンネルのように駒木の列が並んでいる。全部で1万8000本。87年に真室川農協の阿部正男さんに勧められ、栽培をはじめた。木の立ち枯れに悩まされたが、独自のノウハウを身につけ、軌道に乗せた。今では町内の55戸が栽培に乗り出し、市場で高い評価を受けている。
その阿部さんが言う。「タラの芽を食べると、作っている私らも『春がきたなあ』と感じる。なんかこう、エネルギーが詰まってるんだな」
ハウスのなかで採れたてのタラの芽を料理してもらった。まず、てんぷら。衣の香ばしさと芽の歯ごたえがたまらない。衣を薄くするのがコツだとか。ベーコン巻きはビールによく合う。
佐川さんの妻の節子さん(59)の一番のお勧めは「タラの芽のみそあえお茶漬け」。タラの芽を塩ゆでし、熱いうちに細かく刻んでかつお節を混ぜ込む。そのあと、好みの量のみそであえ、ご飯にのせて熱いお茶をかけていただく。「うちではこれが定番です」。夜食にぴったりではないか。
町内の山では、4月下旬ごろから天然ものが芽吹く。探しに出かけるのもまた春の楽しみだ。 |