甲州ブドウの産地、勝沼町菱山地区で毎年春、ブドウ農家による自家製ワインの出庫作業が行われる。ブドウ作りから醸造まで、約80年前から続く地域の共同作業で、今年も2500リットルの白ワインを作り上げた。ジャガイモの煮っころがしや浅漬けにも合うすっきりしたおいしさを、他地区では薄れつつある住民同士のコミュニティーが作り上げている。
ワイン作りの仕込みは、ブドウを収穫する10月から。33軒の農家がそれぞれの畑で育てた甲州ブドウを、国からワイン醸造免許を受けている共同醸造庫「菱山中央醸造」=三森袈裟治代表(75)=に持ち込み、破砕機に入れる。果汁は密閉タンクで約6カ月かけてアルコール発酵を待つ。
出庫作業は地区住民が総出となる。ろ過機で不純物を取り除き、各農家が約60本ずつ持ち寄った一升瓶にワインを詰める。今年は3月18、19の両日、延べ約60人が参加。できたてのワインをちびりちびりと口に含み、雑談をしながら行った。
菱山地区は酒の原料になる米作に適さず、1935年ごろからワイン作りが始まった。晩酌など日常生活で親しまれ、冠婚葬祭でも飲まれる。県ワインセンター(勝沼町)によると、生産者が自ら作って飲むのは、県内でもごくわずかの地域。三森さんは「みんなで作ったワインだからこそ飲むのが楽しい」と話す。
住民のコミュニティーとワインの味に魅せられ、毎年出庫作業を手伝いに訪れる神奈川県城山町の高校教諭、藤田正人さん(53)は、今年も卒業生3人を連れて参加。「住民同士のつながりは、コミュニティー意識が薄い都市部の生徒たちにとって良い勉強になる」と話した。
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