弁財天と市杵島姫命(イチキシマヒメノミコト)の習合は、日本の神仏習合を象徴する現象です。市杵島姫命は古事記・日本書紀に記される宗像三女神の一柱で、天照大神と素戔鳴尊の誓約(うけい)から生まれました。「水辺に鎮座する女神」という共通点から、平安時代後期に弁財天と同一視されるようになりました。この習合は特に厳島神社(1168年、平清盛が造営)で決定的となり、以後全国に広まりました。
インダス河の女神が日本の海の女神に
インドのサラスヴァティー川の女神が日本の海の女神と結びついた背景には、仏教伝来のルートが関係しています。サラスヴァティーは元来「川を持つもの」の意味ですが、仏教とともに中国・朝鮮を経て海を渡って日本に伝わる過程で、海洋の女神としての性格が加わりました。宗像三女神は古来より海上安全の守護神であり、遣唐使の航海安全を祈願した歴史があります。この海との結びつきが両者の習合を自然なものにしました。
神仏習合によつて、弁財天は宗像大社(宗像市)の市杵嶋姫命と同一のものとされるようになった。宗像大社は、「宗像三神」と呼ばれる田心姫命、滞津姫命、市杵嶋姫の姉妹の神を祭神とする神社である。
宗像大社の本社とされる辺津宮では、妹にあたる市杵嶋姫命が祭られている。そして辺津宮の北西にある大島の中津宮が次姉の滞津姫命の宮、さらにその北西の玄界灘の絶海の孤島、沖ノ島の沖津宮が田心姫命の宮とされる。
この宗像三神は、古い時代から日本と朝鮮半島との貿易に活躍した宗像氏が祭った海の神であった。宗像氏が大和朝廷に従ったあと、大和朝廷が宗像大社の祭祀を管理し、やがて宗像三神を素戔鳴尊の娘とする系譜を作った。
宗像系の神社と弁天社
宗像大社を総本社とする宗像系神社は全国に約6200社あり、その多くが明治以前は弁財天を合祀していました。特に厳島神社(広島)・江島神社(神奈川)・竹生島の都久夫須麻神社(滋賀)は日本三大弁天として知られ、いずれも宗像系の市杵島姫命を祭神としています。1868年の神仏分離令以降、多くの弁天社が市杵島姫命を祀る神社に改められましたが、現在も弁天社・弁天堂の名称で親しまれている社寺は全国に約400社以上残っています。
仏教が広まった平安時代に、市杵嶋姫命が弁財天だとされた。市杵嶋姫命が宗像三神の中で最もきれいな神といわれていたので、インド生まれの美しい仏、弁財天と結びつけられたのだ。
海の神である宗像三神は水を支配する神だが、宗像の神以外の水に関わる日本の神がインドの川の神である弁財天と同一のものとされた例も多い。次項で取り上げる鎌倉市の銭洗弁天もその一つだが、琵琶湖に浮かぶ竹生島の都久夫須麻神社も島を守る女神浅井姫命が弁財天と結びついたものである。
弁財天を祭る弁天社のかなりの部分は、川、湖、海などにまつわる土地の守り神が神仏習合によつて弁天社になったものである。広島県十日市市の厳島神社は、瀬戸内海航路の要地にある宗像三神を祭る有力な神社である。この神社にも弁財天信仰の要素が入り込んでいるが、現在の厳島神社やその分社は弁財天ではなく宗像三神を祭神とする立場をとっている。
日本三大弁天と宗像系神社
| 神社名 | 所在地 | 祭神 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 厳島神社 | 広島県廿日市市 | 市杵島姫命ほか宗像三女神 | 世界遺産、平清盛が1168年に造営 |
| 江島神社 | 神奈川県藤沢市 | 市杵島姫命ほか宗像三女神 | 日本三大弁天、裸弁財天像で有名 |
| 都久夫須麻神社 | 滋賀県長浜市(竹生島) | 市杵島姫命 | 琵琶湖に浮かぶ竹生島に鎮座 |
| 宗像大社 | 福岡県宗像市 | 宗像三女神 | 世界遺産、宗像系神社の総本社 |
よくある質問
弁財天と市杵島姫命はなぜ同一視されたのですか?
両者とも「水辺に鎮座する女神」という共通点があり、平安時代後期の神仏習合(本地垂迹説)によって同一視されるようになりました。弁財天を本地(仏教の本体)、市杵島姫命を垂迹(日本での現れ)とする論理で結びつけられました。
宗像系の弁天社は全国にいくつありますか?
宗像大社を総本社とする宗像系神社は全国に約6200社あります。そのうち弁天社・弁天堂の名称で現在も知られるものは約400社以上で、明治の神仏分離令以前はさらに多くの社が弁財天を合祀していました。
参考文献・出典
- 宗像大社 公式サイト – https://munakata-taisha.or.jp/
- 厳島神社 公式サイト – https://www.itsukushimajinja.jp/
- 文化庁「宗教年鑑」 – https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/hakusho_nenjihokokusho/shukyo_nenkan/
著者情報
本記事は日本の伝統文化と七福神信仰に関する専門的な知識を持つライターが執筆しました。神仏習合や宗像信仰の研究成果を基に、正確でわかりやすい情報提供を心がけています。